脳ドック関連の学術論文紹介
島根脳ドック研究
1988年に札幌市の新さっぽろ脳神経外科病院で脳動脈瘤検出を目的とした脳ドックが産声を上げました。
その同年に島根県出雲市においてMRIを用いた脳ドック(通称:島根脳ドック)のデータベースに基づくコホート研究が始まりました。脳ドックが日本独自の健診システムである点を加味すれば、世界初の研究基盤構築の試みであったと言えます。
そのスタートアップには島根大学内科学第三の第二代教授である小林祥泰先生が尽力され、第三代教授(山口修平先生)、第四代教授(長井篤先生)に引き継がれています。現在まで延べ8,000名以上のデータの蓄積があり、健常人脳MRI情報の読み解き方に関する研究においては世界でも草分け的存在です。とりわけ無症候性の虚血病変や出血病変と脳卒中発症や認知機能障害のリスクに関する研究成果を世界に発信され続けています。
以下、出雲地域の脳ドック研究の紹介情報を随時追加・更新していきます
※和文誌の要約は著作権の関係で担当者により文章の変更がありますことをご了解ください。
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健常高齢者における原始反射とMRI所見、脳血流関連
Primitive reflexes and MRI findings, cerebral blood flow in normal elderly.
- Kobayashi S, Yamaguchi S, Okada K, et al.
- Gerontology 1990; 36:199-205.
- PMID: 2272523
- DOI: 10.1159/000213200
要約
対象 68人の正常な高齢ボランティア 方法 原始反射(眉間反射、口尖らし反射、手掌おとがい反射)と脳MRI所見、脳血流および精神機能との関係が調べられた。 結果 全対象者の50%で少なくとも1つの原始反射が誘発された。MRI上の偶発的脳病変を有する者は、それらを伴わない者よりも原始反射の発生率が有意に高かった。一方、原始反射のある群とない群の間で、l平均局所脳血流量(rCBF)、脳萎縮、および知的能力に差はなかった。 結論 原始反射はかなりの割合で現れ、これらの反射は正常な高齢者の偶発的な脳病変と有意な関係がある。 -
健常成人における無症候性ラクナ病変の頻度と
その脳血流やリスク因子との関連Incidence of silent lacunar lesion in normal adults
and its relation to cerebral blood flow and risk factors- Kobayashi S, OkadaK, Yamashita K
- Stroke1991;22: 1379-1383
- PMID:1750045
- DOI:10.1161/01.str.22.11.1379
要約
対象 神経学的に健康な脳ドック健診受診者246名
((男性145名、平均62±8.9歳)(女性101名、平均60±7.1歳))方法 脳MRIは0.15 Tesla(MRI-T15, Toshiba Co., Japan)が用いられた.T2強調MRI上の高信号(T2高信号)、かつT1強調MRI上の低信号(T1低信号)を無症候性ラクナ病変と定義された(直径の定義は示されていない)。これらの病変に加え,T2 高信号のみを呈する病変(側脳室辺縁の高信号を除く)も含めて、“無症候性ラクナ”と定義された。脳血流はNOVO-16-channel-cerebrographによるゼノンCTで計測された。脳室周囲高信号(periventricular hyperintensity:PVH)は4段階で評価され、厚みのあるPVH(grade 3)や顕著なびまん性PVH(grade 4)が“apparent PVH(明らかなPVH)”と定義された。 結果 13%に“無症候性ラクナ”を認めた(そのうち66%がT2高信号,かつT1低信号)。無症候性ラクナを有する群(無症候性ラクナ群)は,有しない群に比べて高齢で、男性、高血圧、平均血圧、網膜動脈硬化が多かった。平均局所脳血流量(regional cerebral blood flow: rCBF)は無症候性ラクナ群で有意に低く(p<0.02)、両側前頭側頭で特に低かった(p<0.05)。明らかなPVHは無症候性ラクナ群で多かった(p<0.01)。 結論 無症候性ラクナは脳血流低下や血管リスクと関連していた.同病変は将来の症候性脳血管障害(認知症を含め)のリスク因子かもしれない。 -
健常高齢者の大脳白質障害と知的機能,
血圧の関連についてThe relationship between cerebral white matter changes, mental function and blood pressure in normal elderly.
- Yamashita K, Kobayashi S, Fukuda H, et al.
- Nihon Ronen Igakkai Zasshi. 1991; 28: 546-550.
- PMID:1942635
- DOI:10.3143/geriatrics.28.546
要約
対象 対象は島根医科大学(現島根大学)と島根難病研究所が行っている地域健診受診者の中から、老人会に所属する社会的に活発で、脳疾患の既往のない神経学的に異常のない老人39名、平均年齢75.0歳, 男性21名)。 方法 大脳白質障害の程度は、脳MRIにて、基底核及び側脳室体部を通るT1強調画像を撮影し、T1値が400msec以上の値をもつ白質の部位から側脳室辺縁までの距離を計測することにより、白質障害の範囲を定量化した(T1値が400msec以上の部位はほぼT2強調画像におけるhigh intensity area に相当する)。基底核を通るスライスでは側脳室前角からの距離を測定し(2箇所)、側脳室体部を通るスライスでは体部前方、中央部及び後部からの距離を測定した(6箇所)。これらの測定部位のうち、側脳室からの距離の4箇所の合計を前頭葉白質障害の指標に,全8箇所の測定の合計を全白質障害の指標とした。知的機能については、言語性知能の評価として長谷川式簡易知能スケール(HDS)、動作性知能の評価としてKohs' block design test (Kohs' test)が用いられた。 結果 前頭葉白質障害範囲は加齢と相関した(r=0.34, p<0.05)。一方、全白質障害範囲は加齢との関連はなかった。白質障害の範囲と各知的機能との関連は見られなかった。平均血圧上昇は前頭葉白質障害範囲と有意な相関を示し(r=0.38, p<0.02)、全白質障害範囲との関連の傾向を認めた。 結論 健常老人では、白質障害と知的機能とはあまり関連がみられなかったが、前頭葉白質障害と平均血圧とは何らかの関連がある可能性が示唆された。